家族旅行のにぎやかな思い出とともに舌によみがえる味がある。「ままたびの酢漬け」の味だ。
夏か初秋の奥只見へ行ったときのことだ。ドライブインのアユの塩焼き定食に「またたびの酢漬け」が添えられていた。母がカリカリした食感を気に入っておいしいと言うのでかじってみたのだが、小学生の味覚にはまたたびの香りも酸味も強烈で、涙した。あの実の青臭さや漢方薬のような匂い、酢の刺激は、「食べられなかった」と言う敗北感と共にいまだに鼻によみがえる。確か、母は妹の分も食べ、売店でお土産に買っていたような…。
それ以来、またたびの酢漬けにはお目にかかっていない。子供の頃苦手だった納豆も、豚の脂身も食べられるようになった。あちこちの「名物」も「珍味」と言われるものも食べてみた。あれほど敗北を感じる味は無かった。あの頃の母の年齢を思いっきり追い越した今、そろそろ「またたびの酢漬け」も食べられるようになっているだろうか…。