スペイン人の胃袋(「甘口辛口」新潟日報 2002.5.14掲載)

国立西洋美術館で「プラド美術館展」を見た。豪華な衣装の肖像画に混ざって食ベものを描いた絵がある。キツネ色に焼かれたパン、果物、狩りでしとめたカモや皮をはがれたウサギ、解体したシカなどが描かれている。食欲を刺激するために食堂にかけたのだろうか。

生気のない羽、力を失った筋肉や骨格などの細密な写実表現は見事だ。描いた画家の執拗な目を感じる。それだけではない。その絵を描かせたスペイン・ハプスブルク・ブルボン両王朝の貴族達の強大な勢力、強烈な生命力、大航海時代以降世界を制した胃袋の旺盛な食欲が垣間見えるようだ。あの絵に描かれたカモやウサギはどんなごちそうになったのだろう。今の私たちも、おいしいと感じるのだろうか。

スペイン貴族の胃袋を満たしたであろうごちそうが、数百年の時を超えて私の胃袋を刺激する。

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